相続人申告登記制度とは、不動産を相続した人が法務局の登記官に対し、自分が不動産の相続人である旨を申し出て、職権で登記してもらう制度です。
これは、「相続人が申請義務を簡易に履行することができるようにする観点から、新たな登記を設ける」ものとして作られました。(新第76条の3)
登記官が職権で登記を行ってくれるので、相続人にとってはハードルの低い利用しやすい制度と言えます。最終的な相続登記は改めて行うことにして、とりあえず登記簿上の所有者に相続が発生したことと、その相続人である蓋然性の高い者を暫定的に登記するものです。
相続人申告登記制度の効果
所有権の登記名義人について相続が開始した旨と、自らがその相続人である旨を、申請義務の履行期間内(3年以内)に登記官に対して申し出ることで、申請義務を履行したものとみなす(登記簿に氏名・住所が記録された相続人の申請義務のみ履行したことになる)ことになります。
申出を受けた登記官は、所定の審査をした上で、申出をした相続人の氏名・住所等を職権で登記に付記します。
その結果、登記簿を見ることで相続人の氏名・住所を容易に把握することが可能になります。
なお、相続人が複数存在する場合でも、特定の相続人が単独で申出が可能です(他の相続人の分も含めた代理申出も可)。
また、法定相続人の範囲及び法定相続分の割合の確定が不要です。
添付書面としては、申出をする相続人自身が被相続人(所有権の登記名義人)の相続人であることが分かる当該相続人の戸籍謄本を提出することで足ります。そのため、戸籍資料収集の負担が軽減されます。
ただし、通常の相続登記のように、所有権が相続人に移転したことを対外的に主張できるようになるわけではなく、「登記簿上の所有者が亡くなった」という事実を知らせる範囲にとどまります。そのような観点から、「相続人である旨の申出」に際して、法定相続人全員を調査する必要もなく、持分を明らかにする必要もありません。その意味で非常に簡易的な登記です。
したがって、後日に遺産分割協議が成立した場合は、遺産分割協議の内容に合致する相続登記をあらためて申請しなければなりません。この登記は、遺産分割の日から3年以内に行わなければなりません。
また「相続物件を売却したい」という場合も、正式な相続登記を申請しなければ売却することはできません。つまり、「相続人である旨の申出等による登記(相続人申告登記)」をしただけでは、売却や贈与などの変更の登記はできません。