相続登記を義務化することは以前から検討されており、2021年2月10日に法制審議会民法・不動産登記法部会第26回会議において民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案(案)が決定されました。政府は3月5日に改正案を閣議決定をし、同年4月21日の参議院本会議で成立しました。相続登記義務化は2024年4月1日から施行されます。住所変更登記も義務化されますが、施行日は公布後5年以内の政令で定める日とされており、現段階では施行日は未定です。
相続登記の義務化
不動産の所有者について相続があったときは、相続により不動産の所有権を取得した者は、相続の開始及び所有権を取得したことを知った日から3年以内に不動産の名義変更登記をしなければなりません。正当な理由がないのにも関わらず登記申請をしないでいると10万円以下の過料の対象となります。これは、遺言などの遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も同様です。
相続登記を申請しない正当な理由がない場合に過料の適用対象となる
”正当な理由”がないにも関わらず相続登記の申請義務を違反した場合には、過料の対象となります。”正当な理由”がある場合には過料の対象となりません。
個別の事情によっては、3年以内に登記申請を行うのが難しい事例もあるからです。どのようなケースが”正当な理由”に該当するかについては、法務省は、正当な理由があると考えられるケースとして下記を例示しています。
- 数次相続が発生して相続人が極めて多数に上り、戸籍謄本等の必要な資料の収集や他の相続人の把握に多くの時間を要するケース
- 遺言の有効性や遺産の範囲等が争われているケース
- 申請義務を負う相続人自身に重病等の事情があるケース など
法改正以前の相続登記未登記物件にも適用される
この相続登記義務化は、法改正後に発生した相続だけではなく、法改正以前から相続登記をしていない不動産についても適用になります。
改正法附則の条文では「”知った日”又は”施行日”のいずれか遅い日」と規定されており、自分が相続により不動産の取得を知った日が遅ければ「知った日から3年以内」に相続登記をすればよいとされています。例えば、先代が自宅やアパート以外にも地方に山林など所有していたことを今まで知らず、法改正後に相続していたことを知った場合には、改正法の施行日から3年ではなく、不動産の相続を初めて知った日から3年以内に相続登記する義務を負います。
遺産分割後の名義変更登記も義務化される
相続人間の遺産分割がまとまらず、速やかに相続登記ができないときは民法で定める法定相続人が法定相続分で登記を行うことにより、当初の義務を免れることができます。しかし、そのままだと法定相続割合での不動産の共有となってしまいます。そこで、法定相続分による相続登記後、遺産分割協議を行うことにより遺産分割で取得した相続人は、その名義変更登記を行う必要があります。この遺産分割による名義変更登記においても、遺産分割の日から3年以内に登記をすることが義務づけられます。
義務化に伴う登記手続きが一部簡略化される
相続人に対して相続財産の一部を遺贈する内容の遺言があった場合には、不動産の遺贈を受ける者以外に法定相続人全員(遺言執行者がいるときは遺言執行者)の協力がないと遺贈による名義変更手続きができませんでした。協力をしない相続人等がいると義務を履行できないため、改正後は遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)による名義変更は、不動産の遺贈を受ける者が単独で申請することができようになります。
また、法定相続分による相続登記後、遺産分割による名義変更登記も、他の相続人の協力がなければ名義変更ができなかったのが、法改正により、不動産を取得した者の単独で申請することができるようになります。